素粒子の論文は誰にでも読めます
オープンアクセスが話題になっているようですね。
近年論文購読料の高騰が続いていて、有名な国立大や研究所でも維持するのが難しくなってきています。そんな背景もあって誰でも論文にアクセスできるオープンアクセス化を進めようという世界的な動きがあります。この辺りの詳しいお話はこちらを読んで頂くことにして、僕からは素粒子分野におけるお話をすることにします。
実は素粒子を含む、物理・数学分野では20年前から論文のセルフアーカイブが行われていて、現在 誰でも自由に論文を読むことができます。
セルフアーカイブとは研究成果を機関リポジトリや研究者のWEBサイトなどオンライン上で無料公開することを意味し、アーカイブ先としてはarXiv やアメリカ国立衛生研究所 (NIH) の PMC が有名である。物理学の分野では、掲載前の論文であるプレプリントを共有し、同分野の研究者からフィードバックを得る仕組みは文化として定着しており[19]、arXiv はオープンアクセスの成功した事例の一つとして挙げられる[20]。
オープンアクセス化されていても、それが世間に知られていないのはあまり良くないですよね。ここでは arXiv の紹介と使い方の説明をしようと思います。
arXiv とは
arXivとは物理・数学分野の人の利用しているプレプリントサーバーです。
素粒子分野では論文誌に投稿する前に arXiv にその原稿を投稿するお約束になっています。査読後、適切に修正したものに差し替えます。論文誌に掲載されるものとだいたい同じものを読むことができます。この仕組みの利点はいくつかあります。
- 速報性が高い
通常、論文投稿から掲載まで数ヶ月かかります。arXiv では投稿前の論文が掲載されるので最も速報性が高いのです。研究者達は新聞を読むかのごとく毎日 arXiv をチェックしています。
- 多くの人の意見を論文に反映できる
arXiv に載せると多くの人から意見をもらうことができます。この論文を引いてくれとか間違いの指摘など、他の人の反応を見ながら論文を投稿前に修正することができます。(無反応の事も多いですが・・)
- 誰でも無料で読める
研究者でなくても誰でも読むことができます。研究者にとっても、いつでもどこからでもアクセスして読めるので便利です
使い方
- High Energy Physics
- Theory (hep-th) : 弦理論など
- Phenomenology (hep-ph) : 現象論
- Lattice (hep-lat) : 格子場の理論
大体この辺りです。
recent をクリックすると最近の投稿一覧が表示されます。このページを研究者達は毎日チェックしています。
個別ページにいくとアブストラクトが表示されます。右上の PDF から論文がダウンロードできます。
右下には各種、文献管理サイトやブックマークサービスが並んでいますね。
検索方法
論文の検索には Inspires を使います。
検索の使い方はちょっと癖があります。詳しくは ヘルプを見て頂くことにして、よく使われるのは次のオプションの組み合わせだと思います。
- a 著者
- j 論文誌名
- date 発表年度
これらを and もしくは or で繋げて検索します。
うまくいかない人は Easy Search を使ってみてください。
検索結果
- (1) PDFをクリックすると論文がダウンロードされます
- (2) 参考文献用に TeX 表記を生成してくれます。各種文献管理ソフトに対応しています。
- (3) [レコードの詳細] をクリックすると「何の論文を引用したのか?」「誰がこの論文を引用しているのか?」が一覧表示されます。
おまけ
セルフアーカイブは問題ないの?
eprintによる調査では、約91%の査読付き雑誌が、論文の著者にプレプリントやポストプリントをセルフアーカイブすることを認めている。
とあります。また、これまで arXiv で出版社とトラブルになったという話は聞きません。
arXiv があれば論文購読をしなくていいの?
なかなかそういうわけにはいきません。古い論文(1980年代以前)は arXiv にほとんど載っていないからです。
論文誌の契約を切っていると web 版にアクセスできません。僕はそういった環境にいたことがあるのですがなかなか不便でした。
arXiv に載っていない論文は書庫にコピーを取りにいきます。広い書庫で該当雑誌を探しだし、百科事典サイズのそれを脚立を使って運ぶのはなかなか重労働です。そして、レターサイズでコピーが取りにくい・・。しかも土日は書庫が閉まってしまうので研究に支障がありました。
じゃあオープンアクセスの利点ってなに?
オープンアクセス化が進んだからといってすぐに論文誌の契約を切れるというわけではないと思います。でも 50年後、100年後、論文が十分蓄積されれば状況が変わってくるかもしれません。
また、現在論文にアクセスできない環境にある人たちへのある程度の助けになるのではないかと思います。