場ってなに? -量子力学から場の理論へ-
場の理論では多粒子を扱える
例えば 「火曜日22:00に A君 がコンビニにいる確率」を考えてみましょう。
(量子力学じゃないだろうというツッコミは置いておいて)
A君にGPSを付けてどこにいるかを追跡することで、「家にいる確率40%」、「コンビニにいる確率5%」・・といった具合に統計的に調べる事ができますね。
それでは「火曜日22:00に コンビニに何人のひとが集まるか推定せよ」という問題ではどうでしょうか?
全世界の人にGPSをつけて同じ事をすれば期待される人数を概算できそうですね。でも、世界には大勢の人がいますし、こうしている間にも人が生まれて来たり、死んだりしています。現実的には無理です。このような場合には「コンビニに固定カメラを設置して人口密度を調べる」という方がよいでしょう。
実は素粒子の世界でも似たような事が起こっていて、粒子や反粒子が真空から無限にでてきたり消えたりしています。このような場合、量子力学で無限個の粒子の問題を解くよりも、場の理論で粒子の密度を扱った方が都合が良いのです。
ディラックの海に空いた穴? それとも反粒子?
昔、ディラックという人が不思議な事に気がつきました。
量子力学の計算によると電子に負エネルギーの状態があるのです。エネルギーは低い方が安定です。なぜ全ての電子は負エネルギーの状態に落ちてしまわないのでしょうか?
ディラックは真空において負エネルギーの状態は全て満たされていると考えました。
電子は「フェルミオン」といって、同じエネルギーの状態を取ることのできない性質(排他原理)を持ちます。負エネルギーの状態が全て満たされていればそこに落ちることはないということです。人々はこれを「ディラックの海」と呼びました。そしてこのディラックの海に空いた穴こそが「陽電子」であると考えました。
ところがこの仮説には問題がありました。
ディラックの海では「フェルミオン」以外の粒子(ボゾン)について説明できませんでした。ヒッグス粒子やパイオンなど、ボゾン粒子には排他原理がありません。いくらでも同じエネルギーの状態をとれてしまうので、負のエネルギー状態に落ちてしまいます。
また、真空を負のエネルギーの電子が占めているというのなら、その電場はどこに行ってしまったのでしょう?
このような問題点から素粒子の研究者達はディラックの海を捨て*2、量子力学は場の理論に取って代わられました。現在では陽電子は電子の反粒子と考えられています。反粒子は電荷が逆で正のエネルギーを持つ粒子のことです。
おまけ1:反粒子
作成:Pro2(CC 表示-継承 3.0)
これは泡箱で観察された粒子の軌跡です。色のついた部分が電子・陽電子の対生成の様子を表します。
上から磁場がかけられていて、ローレンツ力でくるくると回転しています。
電子と陽電子は電荷の符号が逆なので、逆回転しているのがわかります。
おまけ2:目で見るグルーオン場
こちらは「強い力」を媒介する「グルーオン」場の真空中における様子です。アデレードの研究グループがスーパーコンピューターで計算したもので、一般の方向けに視覚化した動画なのだそうです。見た目が楽しいですね。
(詳しい人向けに補足しますと、これは格子量子色力学で生成されたゲージ配位を視覚化した物です。T方向に長い配位を計算し、下から上に動かしているんだそうです。計算セットアップはこちらをどうぞ)